日本東洋医学会EBM委員会 (2012年6月にEBM特別委員会から改称) 診療ガイドライン・タスクフォース (Task Force on Clinical Practice Guidelines: CPG-TF) は 2005年6月に設置された。 2009 2014年は エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース(Task Force for Evidence Report/Clinical Practice Guidelines: ER/CPG-TF) として活動していたが、2014年6月より、再びCPG-TFとして単独で活動している
タスクフォース発足当初は、2004年より WHO西太平洋地域事務局 (WHO Regional Office for the Western Pacific: WPRO) に開始された「伝統医学診療ガイドライン」プロジェクトへの対応が主たる目的であった。しかし、そのプロジェクトには組織的・方法論的問題があり、このことを日本から厳しく指摘し、2007年にその活動を中断させた 。一方、日本における伝統医学を含むCPGの現状調査の必要性が浮かび上がってきた。特に漢方製剤についての現状分析は、WHO/WPROのプロジェクトにも貢献すると考えられた。そこで、漢方製剤の記載を含む日本国内発行のCPGの調査を2006年から開始した。
方法としては、システマティックレビューに準じた網羅的方法を取ることとした。2006~2015年までは、国内のCPGを最も多く収集している東邦大学医学メディアセンターの協力を得て、その「診療ガイドラインリスト」に収録されているものの中から調査していた。その後、東邦大学医学メディアセンターの「診療ガイドラインリスト」は、NPO法人 医学中央雑誌刊行会の医中誌webにおいてガイドラインのタグが付けられていたものと合体されたため、本versionでは、「東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース」に収録されているものの中から、下記を除いたものを「日本国内発行のCPG」とした。
- i) 外国のCPGとその翻訳版、 ii) 医療倫理に関するガイドライン、 iii) 動物実験や治験など研究に関するガイドライン、 iv) その他、臨床診療を目的としないガイドライン 、 v) すでに改訂版が作成されている CPGの旧バージョン、 vi) CPGのダイジェスト版、 vii) 患者向けCPG
ついで、選択された すべてのガイドラインを目視により調査し、漢方製剤に関連する記載を抽出しリスト化した。
結果は以下のとおりである。
(1) 1,722件 の「日本国内発行のCPG」の中で、なんらかの漢方製剤に関連する記載があるCPGは152件(8.8%)であった。
(2) これらを以下の3つのタイプに分類した。
- タイプA: 引用論文が存在し、エビデンスと推奨のグレーディングがあり、その記載を含むもの - 37件
- タイプB: 引用論文が存在するが、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの - 62件
- タイプC: 引用論文も存在せず、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの - 53件
すなわち、漢方製剤についてエビデンスに基づく推奨度記載のある質の高いCPGは 、増えてはいるもののまだ少ない。
(3) 漢方製剤のエビデンスがあるにもかかわらずCPGで取り上げられていないことがある。
日本東洋医学会EBM委員会 ER-TFは、2021年、「漢方治療エビデンスレポート 2019」(EKAT2019) の公開で、1986-2018年の漢方製剤のRCT606論文、メタアナリシス10論文について 512の構造化抄録 (RCT: 502, メタアナリシス: 10) を作成している。この616論文のうち、CPGに引用されていたのはわずか、77論文(複数のCPGに同一の論文が引用されている場合でも1つと数えた)のみであった。本来それがCPGに取り込まれるべきなのに、取り込まれていない漢方薬のエビデンスが存在することも明らかになった。一方、「鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2020版 (改訂第9版)」 、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020」、「アレルギー総合ガイドライン 2019」、「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」、 「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版」において、ガイドライン作成段階で本サイトを利用している状況もみられるようになった。今後も漢方薬の質の高いエビデンスが各CPGに反映されるべきであると考えている。
本報告には漏れなどもあると考えられる。会員からのご意見や情報を、ebm-cpg@jsom.or.jp 宛にいただければ幸いである。