令和5年(2023年)6月25日に開催されました第74回定時社員総会におきまして、理事が承認され、同日開催されました理事会におきまして、第23代会長に選出されました三谷です。どうぞよろしくお願いいたします。現在、学会は国内、国外ともに重要な課題が山積しています。舵取りが必要なこの時期にあたり、私の抱負を述べさせていただきます。
私は、佐藤弘・伊藤隆両会長の下で8年間、副会長として仕事をさせていただき、学会の置かれている立場が年々難しくなってきていることを痛感してきました。現在の大きな柱は、薬用作物(生薬)のこと、漢方医学教育と専門医制度、国際社会における伝統医学の課題と役割、そして常に目を光らせていく必要のある健康保険外しの対応です。
コロナ禍の中、学術総会や地方会、さらには学会の委員会の運営も大きく変わりました。これまでは、私たちを厳しくご指導いただいた先生方に、直接対面でご意見をお伺いしながら事を進めてきましたが、オンライン併用となり、意見交換が難しくなっていると感じています。全国的には世代交代が進んでおり、様々な課題に私たちは同年代・次世代の先生方とタッグを組んでいく必要があります。西洋医学は「エビデンスに基づく診療、ガイドラインの確立」が前提となっており、日本東洋医学会も、この流れのなかで進んでいくことが大事です。その中で「伝統医学のありかたを問い続ける」ことは、一見矛盾するようですが、努力を重ねられた先達にも、次世代を担う先生方にも納得していただける方針を掲げること、これが学会運営の基本と考えています。
さて、私は開業医として、家庭医の立場で日常診療・地域医療に日々取り組む一方、奈良県立医科大学では奈良県の伝統的な薬用作物(大和当帰・大和芍薬・キハダ(黄柏)など)をどう活かすかというテーマに取り組んでいます。現在、薬用作物は残念ながらそのほとんどを中国からの輸入に頼らざるを得ません。国内産は伝統的な手法で、品質にこだわって栽培していますが、薬価の壁は、農家の方々が意欲をもって栽培することを阻んでいます。市場流通品を健康保険内でおさめようとするのは無理がある・・・それは百も承知です。が、ひとりでも多くの病人さんに漢方薬をお届けしたい、漢方診療を受けていただきたいという願いがあって昭和51年(1976年)漢方製剤の健康保険全面適応を勝ち取ったわけですから、一切の妥協なく保険外しの動きの監視と薬用作物(生薬)高騰化対策に力を尽くします。
次に、漢方医学教育についてです。学生時代に漢方医学の魅力に触れることは重要です。日本漢方医学教育協議会と協力し、奈良県立医科大学では教育開発センターの若月幸平教授とともに学生講義をグループワーク中心の形で行っています。また、京都府立医科大学でも「漢方医学アプリケーション開発研究計画」を医学教育センターの丹羽文雄先生ととり組んでいます。漢方医学のこれからを担う若い世代の先生方に、漢方医学を定着させていくためには、何よりも医学教育の中に漢方医学を位置づけたいと考えています。いつでも、どこでも活用できるe-ラーニングシステムの活用もカギとなります。
最後に、国際化に向けてです。日本では、西洋医学を学んだものでないと漢方医学を学ぶことはできません。山田業広、浅田宗伯そして浅井国幹はじめ、多くの優れた漢方医学の担い手の先生方の反対を押し切って、明治政府は1884年に医師免許規則を施行、伝統医学は長きにわたり茨の道を歩むことになりました。しかし、見方を変えると、これは世界に誇るわが国独自の医療体系ともいえます。漢方医学苦難の時代に、和田啓十郎は「医界之鉄椎」を出版、伝統医学の意義を世に問いました。エビデンス全盛の中でみえにくくなっている医療の本質は、漢方医学を学ぶ私たちの眼にはみえているのではないでしょうか。私は、わが国の医療の体系と苦難の日々を先達のたゆまぬ努力で乗り越えてきた日本の漢方医学こそ、中国・韓国に留まらず、世界の伝統医学をリードしていく立場にあると考えています。
繰り返しになりますが、今日の漢方医療の隆盛は、苦難の時代に強い意志を持って進まれた先達のたゆまざるご努力の賜です。漢方薬を当たり前に日常診療に活かせることに感謝し、国民医療の一環としての漢方保険診療の継続に全力を尽くしたいと考えています。そして、日本独特のしくみである「西洋医学を基盤とした伝統医学」を、漢方を生業とする全ての診療科の先生方とともに展望していきたいと思います。先生方お一人お一人が主役です。どうぞよろしくお願いいたします。
会長 三谷和男